「ミズノさん、こいつ学歴詐称ですよ!」
TVタレントのお粗末な経歴詐称が話題になった頃、小中高の後輩にあたる若い友人からメッセが届いた。
 
ある同窓の人について
「大学の医学部を4年で出て就職とあるが、医学部は6年制だからおかしい、明らかに詐称」
との仰せ。
 
槍玉に挙げられた人は、偶々小学校の部活で縁があったので、気になってすぐ検索したらその医学部には4年制の特殊な課程があり、そこを卒業しておられることが分かった。
 
「医学部を4年で卒業できる訳がない!だから学歴詐称だ!」
というのは一見論理が通っているように見えるけれど、ちょっと調べれば分かることを確認せず、ひとさまをこいつ呼ばわりした挙げ句に経歴詐称と断定して触れて回るのは、当人の無知や思慮の浅さを証すものでしかありはしまい。
 
自分の直感を信じることも大事かも知れないが、実際には極めて薄弱な根拠を基に、僕以外の人にも拡散されていたのだとしたら、知らないところで嘘つき呼ばわりされた側は堪ったものではあるまい。
 
例えば僕が飲食店を経営して、特殊な食材を入手して提供していたとして
「そんな食材が日本で手に入る訳がない!産地偽装だ!」
などと見知らぬ輩に一方的に言い触らされたり、レビューサイトに書き立てられたりしたら、そうした風説に対抗できる術を、僕はほとんど持ち得ないのではなかろうか。僕は飲食業界に足をつっこむつもりはないけれども。
 
とまれ、自分が身につけてきた経験や技能、評価といったものが、相手の無知で滅茶苦茶に毀損されたとしても、向こうは何の責任も負わないし、今日も澄ました顔をして、言いがかりをつける対象を捜してこの浮世を徘徊しているのだとしたら、ただ慄然とするばかりではないか。

そしてまた、僕自身がこの低劣なデマゴーグになってはいまいか、自分には無知な領域がたくさんあると謙虚に受け止めるこころを失っていないか、と自戒しないわけにいかないのである。