信じてくれない人も多いんだけど、小学生の頃僕は聖歌隊に所属していた。そのお陰で今でもカトリックのミサで歌詞を見ることは殆どなく、口をついて歌えてしまう。
 
その聖歌隊の夏の恒例行事が、8月下旬の合宿だった。3泊4日で日光・中禅寺湖畔に泊まりこみ、朝から晩まで歌の練習をするもので、3日目の午後だけ周辺のハイキングに出かけるのが唯一の楽しみだった。竜頭の滝まで延々歩いたのはよく覚えている。
 
合宿所は日光かつらぎ館という上智大学の施設で、どうして我々が使わせてもらえたのかは知らないけれど、カトリックの大学の施設だけあってシックな聖堂があり、そこで歌の練習をしていた。
 
我々が強制収容所と呼んでいた那須の学校の宿舎とは違い、部屋も畳敷きで旅館のようで、食堂やラウンジルームも重厚なつくりで、何より湖に近い静かで涼しい環境が気に入っていた。
 
上智大学の名前を初めて知ったのがこのかつらぎ館で、将来その大学に入ったらここを利用できるんだなぁと、幼心に思っていた。
 
時は過ぎ、果たして僕は上智に入学した。高校2年くらいから、フランス語の勉強を続けたいと思うようになり、文系3科目で受けられる外国語学部のある大学としてその存在が大きくなっていただけで、かつらぎ館のことは忘れかけていた。
 
入学して、学生部に行ってみると福利厚生施設の案内があった。そこで、昔のことを急に思い出して勇んで調べてみたが、既にかつらぎ館はなくなっていた。
 
数年後、日光に出かけた時にかの地を訪れてみたが、どこかの企業の保養施設になっていて、勝手に立ち入ることは出来なくなっていた。あの聖堂がどうなっているのかも分からなかった。
 
昔の思い出は、記憶にしか残らなくなってしまったけれど、当時の聖歌隊のメンバーの一部とは、先輩・同期・後輩、そして顧問の先生を含め交流が続いているのは嬉しい限りだし、変わってしまうものと、変わらないものの大切さを今にして思う。

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