1930年(昭和5年)生まれの筆者。戦争に傾倒してゆく社会の中、戦争に反対する立場の父と家族は肩身の狭い思いをしつつ、時には水面下での反戦活動を行う父の密使まで務めながら育ってゆく。そして、小学3年生の時、担任として着任した伊藤信雄先生と運命の出会いを果たす。落ちこぼれを許さず、どの生徒にも自信をつけさせようとする先生の姿に、筆者を始め級友の誰もが惹かれてゆく。

戦時少年佐々淳行―父と母と伊藤先生 (文春文庫)
佐々 淳行
文藝春秋
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卒業式の日、先生は筆者たちとある約束をする。

「次の伊勢神宮の遷宮は、昭和二十五年だ。この年にもし戦争が終わっていたら、生き残った者みんなでまたお伊勢参りをしようじゃないか。日にちは、ぼくの誕生日の五月五日。時刻は正午。場所は上野公園の西郷隆盛の銅像の下。たぶん、空襲で焼けても西郷さんの銅像なら残っているだろう。そこに必ず集まるんだ。いいな、男の約束だぞ。」

しかし、1945年(昭和20年)、終戦を待たずして伊藤先生は突如この世を去る。それから5年後、大学生になった筆者は約束の地、上野公園に立つ。そして……
教育現場の荒廃が叫ばれて久しい今、教育に関わる人ならば是非読んで貰いたいし、変な人材育成本を読むより遥かにためになる一冊。