経営学者で一橋大学教授を務める筆者のもとに寄せられた、人生相談の連載をまとめた一冊。
売り上げランキング: 5,580
主に若い人の悩みに対して、時としてコミカルな筆致を交えながら、示唆に富む見解を述べてゆき、そして毎回「好きなようにしてください」というお決まりの科白で締めるのだが、書中とりわけ印象的だったのは、著者のいう「幼児性」。
「幼児性」の中身には以下の三つがあります。一つ目は世の中に対する基本的な認識というか構えの問題です。身の回りのことごとがすべて自分の思い通りになるものだという前提で生きている人を「子ども」と言います。物事は自分の思い通りになるべき。思い通りにならないことは「問題」であり、間違っている。これが子どもの世界認識です。一方の大人は、「基本的に世の中のすべては自分の思い通りにならない」という前提を持っているものです。
(中略)
本来は個々人の「好き嫌い」の問題を手前勝手に「良し悪し」にすり替えてわあわあ言う。これが幼児性の二つ目です。(中略)本当は世の中の九割は「好き嫌い」でできています。にもかかわらず、それを勝手に良し悪しの問題だととらえてしまうので、(中略)評価したり意見を言いたくなったりする。
(中略)
幼児性の三つ目は、他人のことに関心を持ちすぎるということです。(中略)私生活が気に入らないなんて、他人のことを気にしすぎている。なぜそうなるかと言えば、本当にその人が気になるというよりも、自分の中に何かの不満や不足感があって、その埋め合わせという面が大きいのではないかと思います。自分の仕事や生活に何かさみしさや不満、鬱憤、鬱屈、屈託があって、いま一つ充実していない。そういう人は他人の欠点や問題、もっと言えば「不幸」を見て心の安らぎを得るというか、鬱憤晴らしをするところがあります。
僕自身の幼児性を言い当てられているようにも思うし、僕の周りにいる、なぜか時と場所もわきまえず相手の事情も理解しようとせず人に絡んできたり、自分のことを棚に上げて不平不満をやたらめったら撒き散らすような人たちの心根にあるものは、
「思い通りにならないことは『問題』であり、間違っている」
「勝手に良し悪しの問題だととらえる」
「自分の不満や不足感の埋め合わせ」
に収斂してゆくんだろうということが良く分かる。
肩の力を抜いて、著者と一緒に問題の本質を見極めてゆくのが楽しい。