真緒、たしかに親ってすごいよな。僕は心の中で真緒に語りかけた。
『陽だまりの彼女』 越谷オサム・著
9月9日になると、19歳のあの日の出来事をつぶさに思い出す。衝撃的な事件とか事故というものは、前兆があるはずもなく突然にやってくるものだということは、それまでの人生でも理解していたつもりだったけれど、自分の身近なところで炸裂した爆弾の衝撃は、18年経ったいまでも褪せることはない。
(参考: http://www.cliches.net/essays/summer/ )
例年、故人のご尊父がこの時期に法要を営まれていて、出張のせいで今年僕は出席できなかったんだけど、彼女の大学のクラスメートやサークルの仲間たちが顔を揃える。
ご尊父は殺人事件の時効撤廃運動に奔走され、2010年にいわゆる時効廃止法(刑法と刑事訴訟法の改正)が実現した。第三者から見れば賛否両論ある法改正かも知れないが、幽顕を異にした我が子にしてあげられることを親として完璧に果たされたのだろうし、親の愛情というものの途方も無い深さ大きさにひたすら頭が下がる思いがする。自分も親になってはみたけれど、自分の子供に何をどれだけしてやれているか、全く自信が持てない。
彼女と僕はアルバイト先で知り合ったわけだけど、ご尊父は学生のアルバイトなどまかりならぬというお考えであったらしく、親には内緒で働いていたらしい。
その禁止されていた筈のアルバイト仲間だった僕が法要に招かれるのも、妙といえば妙ではあるんだけど、彼女は「留学先では一人暮らししたい」と僕にも話していたから、日本にいる間に出来るだけ貯金しておきかったのだろう。
親に負担をかけまいと、こっそりバイトしていたんだろうと思うと、まったくもって言葉にならない気持ちが膨らんでしまうけど、僕なりほかのアルバイトメンバーが、親を思う子心を知る生き証人とでもいうのか、今もって失われることのない親子の絆を確かめるメタファーになり得るというのであれば、それはある種の栄誉と思うべきなんだろう。
あの夏の終わり、20歳を目前にしていた僕は今年38歳。そして彼女は、今でも、これからも、21歳のままだ。停まった時計の針を動かす術は、ない。
最近、本件に関しDNA鑑定での新証拠が出てきたとの報道もなされている。犯人が捕まったとしても彼女が戻ってくるわけではないけれど、彼女を殺めた人間が、必ずこの世で裁きを受けることを祈っている。
新潮社
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