学生の頃、志望していたマスコミへの内定を得た同じサークルの人が、部室で何やらビリビリ破いていた。他大学のマスコミ研究系サークルの人の名刺だった。いわく
「こいつら全員意味がなくなった。用は済んだ」と。
 
ほんのひと月前に彼は、自分の得た内定企業の中からどれを選んだら良いのだろうかと真剣に、そして弱気に僕に相談していたのに、その後どんなミラクルが起きたのか志望業界への入社が決まり、あの薄暗い会話は何だったのかというほどの有頂天ぶりを見て、彼にとって他人とは自分が利用するための道具でしかないのかと驚き、またそういう思考を平気で披瀝してしまう神経もまた凄いな、そしてこの僕や他の友人との関係も、利用価値がなくなれば同じように切り捨ててしまうのか、という気持ち悪さを覚えたものだった。
 
僕自身、自分の性格の悪さや欠点はのべつ自覚しているけれど、昔の知り合いと少しでも連絡を取り続けようとするのは、この反面教師から見習ったところが大きい。旅先から手紙を書くのも、他愛のないメールのやり取りをするのも、それ自体にさしたる価値もありはしないだろうし、誰かと連絡を取り合うことで何か大きな利益が突然転がり込むなんてことは一度もないけど、人との関わり合いって利益や損失で量るものなのだろうか。損得勘定がないからこその友情ではないのだろうか。
 
どうしても性格が合わないとか、陰で超悪口言われてたっていうんなら仕方がないけど、ある時点での他人を勝手に値踏みして、それで自分より上か下かを決めつけても詮無い話とは思わないのか。そして、自分から一方的に関係を断ち切ってしまった後で、やっぱりその人が必要になった時に、一体どうするつもりなのか。
 
あれから時間を置かずして僕も彼から露骨に遠ざけられるようになり、かれこれ15年以上連絡を取っていないのだが、彼は今、憧れのギョーカイでどんな人生を歩んでいるんだろうかと時々思うことがある。
 

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