(承前)
遅れていた返事を送ると、吉川氏からは素早い返答がありました。

Subject: ご返信ありがとうございます
Date: Sun, 21 Nov 2004 15:52:51 +0900
From: Yoshikawa Toru < yoshikawat2@tv-asahi.co.jp >
To: Nobutaka Mizuno

水野様

ご返信ありがとうございます。

まず、番組の趣旨から説明させてください。
私たちの番組がやろうとしていることはこれまでの
報道番組(尺1分半)で
     「小林さんが殺害されてから?年」
    ⇒「恨みなど買うはずの無い彼女に何が?」
    ⇒「情報をお寄せください」
という流れを再び放送しようというのではありません。

現在の予定では1時間ほど時間を取って、
これまで出てこなかった事件の可能性を探り、犯人を追い詰めます。
時効を折り返し、もはや時効直前までこの事件は風化の一途をたどることは明白です。

僕のこの企画のみが1時間もの枠を切って放送できる最後かつ最大のチャンスだと思います。
ですから、未取材部分無く、完全に取材しきっての放送が必須なのです。
犯罪の目を洗い出し、絞り込み、さらに視聴者に情報を求め、犯人逮捕を目指すという内容です

さて、
これまでの報道ではさも”通り魔的犯罪”であるかのように
認識されているこの事件ですが、

我々は取材を通じて
「明らかに彼女がストーカー的行為の被害者であった」という認識を持っています
※ご家族やご友人が警察に話していない内容もこちらは把握しております

しかし、それが
「学校」での事なのか?
「アルバイト先」での事なのか?
「恋愛」「家庭」「過去の何かのトラブル」なのかは全くわかりません。

そこで彼女が接触していた人物に逐一話を聞く必要があるということなのです。

前置きが長くなりましたが、
水野さまにお伺いしたいのは

・小林さんのアルバイト先でのトラブル についてです

これまでの取材でアルバイト先での不満を彼女が持っていたのではないか?
という内容の話が出てきています。その辺りをお伺いできればと。
もちろん、勤務内容やその場での様子などもあわせて聞かせていただければと。

プライバシーの保護についてですが、ご心配には及びません。
画のエフェクト(or トリミング)はもちろんですが、
声については相談させて頂きたいのですが、、、(HPを拝見し、編集の知識なども豊富でおられますので、現場で相談させていただければと)
(これまでの取材者もご家族含め、そういう形で対応させて頂いております)

内容の使い方ですが、
取材した人物はKさんから「伝聞」という形で話を聞いています。
それを水野さまの証言でウラ取りするという感じです。
証言をそのまま使わない場合は再現のための情報という形でしょうか。

なお、中国放送に取材を、、、という件ですが、正論ではそのとおりですが、
他局の系列であるため、取材は容易ではありません。
さらに現在、こちらが材料を持ち合わせていない形(野面での取材)は
時期尚早との考えをもっております

以上がご質問に対する回答および、番組の趣旨なのですが、
ご協力いただけませんでしょうか?

お時間は1〜2時間程度、
水野さまのご都合のよろしい場所にお伺いいたしますので。
(月曜日は放送当日なので、日・月以外の曜日がいいのですが、、、勝手ですみません、、、)

長いメールとなってしまいましたが、ご返信お待ち申し上げます

テレビ朝日 「奇跡の扉 TVのチカラ」(月曜20時放送)
担当  吉川 徹

何度も読み返してみましたが、残念ながら、彼は僕の質問に答えるよりも、さあ取材をさせろ、さあ都合を聞かせろということにしか興味がないように思えてなりませんでした。確かに、僕の姿や声などというのは、磨りガラスやモザイク、ボイスチェンジャーを使えばそれでいいのでしょう。しかし、僕が最も心配していた点、即ち、僕の発言がどう扱われるのか、については巧妙にはぐらかされてしまっていました。尺とかいう専門用語を使って見せられたところで、「ボクってマスコミの人間だからギョーカイ用語使っちゃった」という自己顕示欲以上のものを感じることは出来ませんでした。
そもそも、警察も知らないような情報と言うものを、彼なり彼の勤める会社が何のために、独り占めしているのでしょう。いま、こうしている間にも、犯人が逃げ回っているかも知れないというのに。
僕は言葉を選びつつ、こんな返事を書いて取材をお断りすることにしました。

Subject: 取材の件
Date: Fri, 26 Nov 2004 12:26:26 +0900
From: Nobutaka Mizuno
To: Yoshikawa Toru < yoshikawat2@tv-asahi.co.jp >

吉川様

申し訳ございませんが、やはり取材はお断りさせていただきたく
茲許ご連絡申し上げます。理由は下記の通りです。

1.
私が何かを話してそれが電波に乗れば、
それがきっかけで第三者が疑いを抱かせる可能性など、
いわば視聴者に特定のバイアスを与えるきっかけになりかねません。
私にとっては、顔や声が出る出ないの問題もありますが、
それよりもむしろ、故人や事件について悉知しているわけでもない
自分の言動が、どこまで他者への責任を負えるのか分からない、
という点が取材をお受けしかねる一番の理由です。

2.
警察が掴んでいない事柄をご存知であるならば、
まずは市民として捜査に協力するのが筋ではないでしょうか。
これまで私が出会ってきた捜査員たちは、文字通り血眼になって
事件の解決のために働いていました。そういう人たちをあざ笑うかのように
新情報の存在とやらを得意気に語られても当方は鼻白むほかありません。

報道機関も慈善事業家ではないでしょうから、番組を構成する上での
売りになるポイントがなければプロダクトとして成り立たないという
考え方があろうことは理解しますが、言葉を選ばずに申し上げれば、
事件をダシにしてはしゃいでいるようにしか思えませんし
そのお祭りに参加する気にはなれないというのが正直なところです。

勝手を申し上げて恐縮ですが、ご理解賜りたく。

以上/水野

前後して、被害者の同級生だったNさんから連絡があり、自分も同じ吉川記者に取材を申し込まれたと聞かされました。吉川記者はよほど仕事熱心なのか、彼女の携帯電話に夜中の10時過ぎに電話をかけてきて、話を聞かせて欲しい云々言ってきたそうです。そして、どういうわけか僕の名前まで持ち出して、自分の取材状況を披瀝してくれたということですが、もちろんNさんにしてみれば、夜中に見知らぬ男からこんな電話をかけてこられても、迷惑以上の何物でもなかった筈で、彼女が暫く無視していると同記者からの連絡は途絶えたそうです。そして、僕自身も、あのメールを書いてから、吉川氏からの連絡は一切ありません。
最近になって、あの記者氏が担当している番組のホームページを見てみたところ、あの事件が3月に番組で取り上げられたようです。番組自体を見ていないので、どういう構成であったのかは知る由もありませんが、ホームページを見る限り、吉川記者が誇らしげに語っていた、警察も知り得ない新情報なるものは見当たりませんでした……
もし、僕が言われるがまま取材を受け、それが番組で放映されていたならばどうなっていたのだろう、と今でも思うことがあります。取材を受けないという僕の判断が間違っていたとは思っていません。なぜならば、もしもどうしても取材を受けなければ事件の解決が果たし得ないというのであれば、故人或いはその家族の想念が、必ず僕を取材に応じさせるように仕向けていたであろうと信じているからです。
9月9日。この日が今年もやってきました。
まだ、犯人は捕まっていません。
(おわり)