(承前)
以前ブログに書きましたし、ホームページのエッセイにもまとめたことがありますが、今から9年前、大学の先輩でアルバイト先の同僚だった女性が殺害されるという事件が起きました。いまだに犯人は捕まっていないのですが、どうやって調べたのか、この僕に取材の申し入れが来たのでした。


メールは受け取ったものの、果たしてどう対応すべきなのか、僕は困ってしまいました。凡そマスメディアなるものは、事実の断片を都合よく繋ぎ合わせた憶測を垂れ流すものだと思っていましたから、そんな連中の片棒を、言われるがまま担ぐのは御免だと思っていました。しかし、その一方で、この事件が風化して迷宮入りしてしまうのは嫌だとも思っていました。僕がこの取材に応えることで、事件解決の一助になるのかどうか、相手が取材したい点とは何なのかを見極めなければならないと思いました。
そんなことを考えているうちに、数日が過ぎてしまっていました。そもそも、僕はEメールを書くのが極めて遅いのです。文書として残るものについて、いい加減なことを書き殴りたくはないし、言葉を慎重に選ばなければ、相手に要らぬ誤解を与えかねないからです。そして、記者氏からは催促のメールが届くのでした。

Subject: 改めまして
Date: Sat, 13 Nov 2004 21:34:34 +0900
From: Yoshikawa Toru < yoshikawat2@tv-asahi.co.jp >
To: Nobutaka Mizuno

水野様

テレビ朝日 吉川です。先日メールを送らせていただいたものです。
改めまして、取材のお願いなのですが、、、

少ない人脈の中から上智大学生のつてを手繰り、
ようやく8年前に亡くなった小林さんのアルバイト先で
一緒だった水野様に行き着きました。

サークル関連の同級生やご家族には話が聞けているのですが、
アルバイト先での彼女の様子が知りたく、
お話をお伺いする機会をいただけないかというお願いのメールです。

時間などは水野様のご都合に合わせ、無理のないようにしますので、
なんとかご協力お願いできませんでしょうか?

テレビ朝日 編成制作局 制作1部
「奇跡の扉 TVのチカラ」吉川 徹

あれこれ考えた挙句、僕は返事を書くことにしました。

Subject: 取材の件
Date: Sun, 21 Nov 2004 05:24:55 +0900
From: Nobutaka Mizuno
To: Yoshikawa Toru < yoshikawat2@tv-asahi.co.jp >

吉川様

長らくご返答申し上げず失礼致しました。
貴信のご趣旨理解致しました。

報道関係の取材というのを私は受けたことがありませんので
どのようなものなのか見当がつきませんし
取材を受けるとして何をお話しすればよいのか
正直なところよく分かっていません。
具体的な内容についてご教示いただけますでしょうか。

アルバイト勤務中の話を知りたいと仰るのであれば、
私に聞くよりも当時中国放送東京支社に働いておられた方々に
伺ったほうが適切という気もします。

個人的には捜査と報道は別物と理解していますし
これまでに、知る限りのことは全て警察の方にお話しして参りました。
何か質問をされて、それが私一人の責任では済まないこと
(e.g. 故人や故人の周囲の人々のプライバシーに関わりかねない事柄)
であったとしたら、それを軽々しく述べて良いものか
そしてその内容が一体どのように扱われるのかという疑問もあります。
また、現在私は勤務先で全国にお客様を抱えております。
言うまでもなく私は容疑者ではありませんので
後ろめたいことは何もありませんが
殺人事件に関わる報道において私の名前、顔、声などが出るような
ことがあれば、今後の営業に差し障りが出ないとも限りません。
これら点については如何お考えでしょうか?

好き勝手に申し上げて参りましたが、
具体的な取材の内容、並びにその内容がどのように扱われるのか
という点について明確にしていただきたくお願い申し上げます。

以上/水野

実際、僕には札幌から福岡にまで顧客がいますし、テレビに出られて嬉しいでしょうなどとはしゃいでいられる話題でもありません。そして何より大事なのは、僕が何かを話したとして、それが自分の意図しないことに利用されたり、発言がトリムされたり、関係のない第三者に影響を及ぼしたりすることだと思っていました。故人のためにも、事件解決の一助となるのであれば取材は受けるべきなのでしょうが、ただ昔の知り合いと言う存在を、言わば演出上の映像素材として欲しいというのであれば、断乎跳ね除けるべきだろうと思っていました。ともかくも、相手の取材意図を見極める必要がありました。
(つづく)