映画『陽だまりの彼女』を観てきたので、興奮が冷めないうちに感想を:

(1) 主人公について
映画化が決まった時、真緒が上野樹里、浩介が松本潤と聞いて「アチャー」と思ってた。ジャニーズとアミューズのタレント押し込みありきかよ、と。
でも、見れば見るほど真緒は彼女でしかありえなくなってくるし、浩介を演じるマツジュンも、妻の影響で見てた「バンビーノ」や、総集編を見たことのある「花より男子」とはぜんぜん違う姿。
原作のストーリーが浩介の独白で、浩介の視点だけで進むから、その姿って読者があまり意識しないのかも知れないし、必要以上に冴えない鈍感サラリーマンにさせられてるキライはあるけど、主人公の二人がその役柄を愛し楽しんでるのが伝わってきてよかった。

(2) ストーリーについて
原作は「外務省のラスプーチン」こと佐藤優が、震災後の日本人のこころの琴線に深く触れたものとして賞賛した経緯もあって、シニア層にもかなり売れているらしい。発刊当初5,000部だったのにいまやミリオン・セラー。ジャニーズファンの購買能力だけでは100万部にはならないだろう…
この原作、伏線だらけで「本文の最初の一行目にもう伏線がある」というある書評サイトの指摘にハッとした覚えがあるんだけど、それをスクラッチ&ビルドというか、一回全バラシして、いわゆるオシャレ恋愛ドラマの風味を加えて、別の世界観から組み直したのがこの映画なんだろうと思う。
原作の要素をあれもこれもって押し込んでいけばストーリーが冗長になっちゃうし、ぶった切ると話が飛びすぎると思うけど、本作はどちらかというと後者の印象が大きい。「あ、そこの描写飛ばしちゃうんだ」「次はもうそこに行っちゃうの?」みたいな。
なので、僕を含む原作ラブな人にとってはいささか駆け足に過ぎる、ストーリーの行間に込められた奥行きの描写が浅過ぎると感じることがあるかも知れない。それでも、作品中の印象的なセリフを実際に聞けるのは素直に嬉しいし、個人的には真緒の両親がすっごく良かった。
柳美里の『雨と夢のあとに』は原作とテレビドラマでかなりストーリー展開が違う(ドラマはエロくない沢村一樹が好演)。それでも話の本質は変わらないし、どちらも同じように面白い。大事なのは作品のコアにあるメッセージを損なわずに組み直すことなんだと思うし、本作もその点においては大成功だと思う。
恋の始まりに理由がなくても、恋の終わりには必ず理由があること。全てを失ったと思える時でも、そこには喪失だけではなく新しい獲得が必ずあること…
結末への向かい方は原作と映画で相当に違うけど、絶対に浩介と一緒になるんだっていう真緒の願いは叶うのだから。

(3) 評判について
映画を見た後、エレベータに乗り合わせた女子グループの会話が聞こえてきたんだけど「思ってたのと違った。あれでどうして泣けるのか分からない」「あーでも隣のおじさん泣いてたよ」「うそー」「マツジュンはもっと格好よくすべきだよねー」「あ、でも上野樹里ちゃんはかわいかった」なんてやりとりがあった。
こういう他愛もない女子トークって久しぶりに聞いたけど、それはそれとして、彼女たちは恐らく嵐の松本くんこそが目的であって原作を読んではいないんだろう。そして、上記の”浅さ”を見抜いた発言なんだろうと思った。そして、涙したおじさんは原作を読んで見に来てて、ジンジンきちゃったんだろうな。
あと、ビーチ・ボーイズの主題歌はとっても効果的で、幸せいっぱいに聞こえるラブ・ソングなんだけど、実はブライアン・ウィルソンは当時、自分の奥さんの妹に恋をしてしまっていて、果たされることのない想いをこの曲に託したのだと聞いた。そう思うと、単純なベタ甘ラブ・ストーリーではない本作のメタファになっていることがよく分かる。真緒のハミングもリアルで何度も聴かせてくれるのはホントにうれしい。
で、何を言いたいかっていうと、真緒かわゆいんですよホントに(笑)。上野樹里だけじゃなくて中学生時代の子も。原作に触れたことがあるなら、レンタルまで待ってもいいから観るべきですよいやホント。

(4) 蛇足:デジャビューについて
劇中、あることがきっかけで浩介がひとり涙を流してしまうシーンがあるんだけど、「ん?これどこかで見たことがあるぞ!? あ、そうだ『時をかける少女』で仲里依紗が最終盤に泣いてしまったシーンだ」って気づいた。そして本篇後のクレジットでその理由が判明。脚本が同じ菅野友恵だった……
 

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