日本航空の長期低落傾向については、この数年間、ビジネス誌や経済紙で多く報じられてきたけれど、その多くは財務諸表の数字と、スキャンダラスに描かれる社内事情とのごった煮で適当に批判しているだけ、という感があって、今ひとつしっくり頭に入ってこない部分があった。


地に墜ちた日本航空―果たして自主再建できるのか
杉浦 一機
草思社
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本書は、日航が低迷に至った経緯を紐解きつつ、国内外の情勢を交えて詳しい解説が織り交ぜられていて分かり易く読み応えがある。
「数字合わせ」「決断の遅さ」「高いプライド」「内向きなエネルギー」「顧客に眼が行かなくなる」といったキーワードで表される大企業病は、ある程度の規模の会社になると罹ってしまいがちなことなのだろうとは思うけれど、日本航空という分かり易い花形企業なだけに、その罹患の度合いも凄まじいのだろなぁということが伝わってくる。
また、筆者は古くからの航空アナリストだけあって、単なる日航叩きに終わっていないところが興味深い。

JALの求めてきたスタンダードはANAのように見せかけではなく、「本物指向」の正当派であったといえよう。近年の例を挙げるならば、国内線の上級クラスのサービスでも、ANAは「スーパーシート」の名称に「プレミアム」を付け加えたが、見せかけだけの「高級」が目立ち、「最上級のサービス」を謳う宣伝用パンフレットと、実際のサービスとの差が大きすぎる。(中略)JALは他社のサービスと比較する前に、大人が満足できるスタンダードに達しているかどうかを検討するが、ANAは相変わらず他社を意識した「上辺をつくろっただけの高級」に走っており、「上質」とは何かが判っていない。さらに、ANAは「一部の特別サービス」を、あたかも「全体で実施している」かのように宣伝する。米国線に導入した「ビジネス用設備が充実」、「バーラウンジつき」の新型機は、何とシカゴ路線に一機が就航しているだけなのに、テレビ、新聞、雑誌で大々的な宣伝を展開した。国内専用として、足回りのスペースを広くしたスリムシートの宣伝を開始したのも、全体で二機が就航した時点だった。

僕自身、この数年の日航は何かがおかしいと思いつつ、全日空マンセーになれない理由の多くが代弁されているような気もします。