朝6時に起きる。雨が降っている。7時にレストランに行き、初めてここの朝食を食べてみる。パンもソーセージもオムレツも美味しくて申し分ない。グレープフルーツジュースが殊のほか新鮮で、おかわりをしてしまう。9時にコンサルタントに迎えに来て貰い、今回の訪問目的である現地の会社との面談に臨む。先方のオフィスはホテルから徒歩圏内だというので連れて行って貰う。雨は上がっているが、道はあちこちぬかるんでいて歩きにくい。治安は悪くはなさそうだが、僕が一人で歩いていたならばたちまちにかっぱらいの標的にされるには違いない。これまで、メールや電話でやりとりをしていたが、面と向かって話をしてみると、思いの外話が通じて恙無く協議が進む。相手のフランス語も、黒人独特の早口になるきらいはあるが分かり易く、結局1時間ほどの話し合いで双方の合意に達する。百聞は一見に如かずとはまさにこのことだな、と思いつつ、握手して事務所を後にする。
時間が相当余ったので、週末に書いておいた絵葉書を送るべく、コンサルタントに郵便局まで連れて行って貰う。フランス植民地自体の名残なのか、“La Poste”の表記や色遣いが殆ど同じ。無事切手を買い求め、発送する。ホテルに戻り、取り急ぎ会社にメールを書いて報告を済ませる。午後は大使館を表敬訪問する予定なのだが、時間が出来たので、この地にあるサン・ポール大聖堂を見学することにする。コンサルタントの案内で、タクシーに揺られて現地に向かう。徒歩で行けなくもない距離だがアップダウンがあるので確かにタクシーの方が楽だ。巨大な聖堂と、美しいステンドグラスに眼を見張る。周囲には、かつてアフリカの摩天楼と呼ばれた高層ビルがいくつも建っている。ホテルの喫茶コーナーで時間をつぶした後、日本大使館へ。雑然とした街区の、古びたビルにあって吃驚する。昨年訪問したエチオピアの日本大使館のビルも古かったが、それを超えるレベルと言っていい。大使閣下と書記官が暖かく迎えてくれ、小一時間面談。色々な考え方があるものだなと思いつつご意見を拝聴する。ホテルに戻り、コンサルタントとはお別れ。今回の訪問に際しては色々世話になった。ホテルの売店で土産物を買ってから、部屋に戻ってシャワーを浴びる。ルーム・サービスで、一昨日も食べたタリアテッレを食べておく。テレビをつけて、フランスの放送を見ていると、全土で大雨らしい。パリも例外ではなく明日も雨とのこと。荷造りを終えて、チェック・アウトしようとするとフロントに「エール・フランス遅延」との張り紙がしてある。いわく、大雨の影響で、飛行機がパリを出られずにいたので、その折り返し便であるこの便も28時頃にならないと出発しないという。最後の最後にこんなトラブルが来たか、と思いつつ、アビジャン空港のエール・フランスのカウンターに電話して現状を確認する。ともかくもチェック・インは定刻ベースで行うというので、20時半にホテルのシャトルバスに乗り込んで空港へ。トランクが恐らく20kgを超えているので、文句を言われると厭だなぁと思いつつ、行列に並ぶ。エコノミー・クラスに座ること自体に不満はないが、荷物の重さや、ラウンジの利用など座席とは関係ない部分でのサービスが全く受けられないというのは、業務出張の時には困るなと思う。果たして、トランクは25kgあったが、現地人のおっちゃん風の係員が黙々と作業をしてくれ、何も言われずにチェック・インが完了する。パリで再び揉めることを懸念して、トランクは成田までスルーにして貰う。出国を無事済ませるが、やることが全くないので、取り敢えずカフェテリアに入ってコーラを注文する。壁際にコンセントがあったので、パソコンをつなぐ。無線LANは通じているが、肝心の決済がウェブ上で出来ず、空港内の売店でチケットを買う形式となっており、その売店は既に店仕舞い。ネットにはつながらないが、レポートを書いたりして時間を潰すことにする。すると、白人男性2名が現れて、隣のコンセントを使わせてくれという。勿論異存はなく手を貸す。
「お前もチャールズ・デ・ガウルに行くのか」
と訊かれる。話をしていると、向こうは英国の石油関係のエンジニアで、これから帰国というところにこの遅れが出て、パリでの乗り継ぎ便にも支障が出ている由。僕自身は、明日のパリ発は夕方なので乗り継ぎに支障はないのだが、パリ滞在時間が相当短くなってしまう筈である。市内に出るつもりでいたが、行く場所を絞り込む必要があるだろう。日付が変わる頃、待合ロビーに移動する。うとうとしているうちに搭乗が始まる。座席に落ち着き、離陸前から眠りにつく。
「メシ、食うか？」
スチュワードの声に眼が醒める。日本のエアラインだったら
「お客様、お食事はいかがなさいますか？」
と訊くところだろうし、彼らも同じ意味の言葉を発してはいるのだが、その口調と物腰からはこれ以外の訳語が見つからない。取り敢えず、ラザニアをお腹に入れておくことにする。食べ終わった後、また眠りにつく。
