NHKの朝ドラ「ちりとてちん」が終わってしまいました。
過去にないテンポの良さと綿密な脚本と、キャストの充実ぶりにも目を見張りましたが、一体何が良かったんでしょう。


1) 前代未聞のヒロイン
「不器用だけど天真爛漫で皆に好かれる頑張り屋」という、朝ドラヒロインの定石を見事に打ち破る
コンプレックスの塊、底抜けのへたれ主人公・和田喜代美。お嬢様育ちで才色兼備、かつ同姓同名の和田清海というクラスメートの存在が、陰影を濃く彩っているのがまた良い。
2) 伏線の開花
ドラマのあちこちに張られた伏線が、後になってガンガン活きてきました。前作「どんど晴れ」ではかなりの積み残し(伏線を張り過ぎて風呂敷を広げた挙句に放置して無理矢理完結)があったようですが…
3) NHKオチの不在
過去の朝ドラで見られた
「私はココロイキのキャクシツジョームインだから」
「だってテンカちゃんだからね」
といったような、無茶苦茶な論理展開で、何が何でもNHK的予定調和ワールドに持ち込ませるようなことがなかったことに注目したいと思います。
4) 息を継がせないストーリー
分かり易い朝ドラの脚本だと、月曜日の放映で「あ、今週はこの話でこうなるのね」ということが何となく分かってしまい、後半は見なくても翌週の話に難なく入れることがあります。これはこれで、飛ばして見る視聴者には良いのかも知れませんが、このドラマは展開が簡単には読めず、週の終わりまで
引きずり込んだ挙句に翌週更なる出来事が起こる。
週のあたまに「?しない」と言っておいて結局は「?する」に落ち着くとか、カップルのスワッピング(ヒロインとそのお相手に恋している者同士がやがて結ばれる)といった朝ドラの古典的演出は健在ながら、大きく展開しがちなストーリーを、あくまでも大阪と小浜の限られた場所だけに収斂させてゆく手法は流石としか言いようがなく、これには、舞台の脚本のようなテクニックが散りばめられていたのかも知れません。
6) キャスト
渡瀬恒彦、竜雷太、京本政樹、米倉斉加年、江波杏子ら大ベテランが競演する豪華キャスト。他局ではまず見られないでしょう。朝っぱらから超ハイテンションな茂山宗彦の好演も光りました。
本業は狂言師の茂山宗彦が、劇中の一発ギャグ「底抜けにシビれたがなー」を自ら考案して、人間国宝のおじいちゃん(四代目茂山千作)に披露したところ「やるからには流行らせるように」と許された挿話や、劇中、元芸者の役柄で三味線の師匠とまで言われる江波杏子が実はこれまでの役者人生の中でそんなに弾いたことがなく、撮影を前に猛特訓してマスターしたといったこぼれ話もスキです。
(7) サウンド・トラック
佐橋俊彦によるBGMの数々がまたよかった。オープニングテーマのタイトル「あの素晴らしき歳月(としつき)に」の意味が、後になって分かってくるというのにまたやられました。
さて、明日からは「瞳」が始まりますが、どんなストーリーになるのやら…

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