1980年代はじめの広島。高校の吹奏楽部を舞台にした青春群像。20年近く経った現在の自分たちとのクロス・オーバーを繰り返しながら、あの日あの場所での日々が浮かび上がってくる。

ブラバン (新潮文庫)
ブラバン (新潮文庫)

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津原 泰水
新潮社
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ただの熱血集団でもなく、ひたすらノスタルジアに傾倒するのでもなく、主人公が淡々と叙述してゆくストーリーには自然と引き込まれてしまう。

「自己表現ですよ。よう誤解されますけど、僕は本来感情的な人間です。これまで自己表現の労を惜しんで、それらを溜め込むことに慣れてきた。ああしてほしい、こうしてほしいいうて頼まれちゃあ、異存ありませんいうて頷くのがこれまでの僕の人生ですよ。この電話もそういう予定じゃったでしょう? ほかに人から大事にされる方法を思いつかず、あとどれくらい我慢できるかいな思うて、砂時計を見つめ続けてきたんが僕です。ところがね、僕の手元の時計なんて当てにならんというのを最近知った。僕の時計にはまだ余裕はあっても、砂はどっかで勝手に落ちるんです。早めに気づいて、ひっくり返してまわるほかない。特に大事な人々との時計は」

個人的には、むかし広島に本社を持つ会社でアルバイトをしていたことがあるので、広島弁丸出しで繰り広げられる会話にも好感が持てた。
ちょっぴり苦い、大人の小説。