大化の改新の立役者であり、天智天皇に重用された中臣鎌足。しかし、現代に連なる藤原氏の祖である鎌足の出自はなぜか伏せられている… 事実上、藤原不比等が主導して描かれた記紀(古事記、日本書紀)の世界の裏側をえぐり、天智・天武天皇の対立の背後にあった古代大和豪族たちの角逐にまで踏み込んでゆく著者。

藤原氏の正体 (新潮文庫)
関 裕二
新潮社
売り上げランキング: 109597

古代期の、憶測に憶測を重ねるしかない検証とは違い、具体的な傍証を備えての推測がかなりの説得力を持って読者に迫ってくる。なかでも、万葉集に収められ、百人一首にも選ばれている持統天皇の歌

春過ぎて 夏来るらし白妙の 衣乾したり天の香具山

に潜む意味については、これまで何度この歌を見てきても気づかなかったことで、今更ながらにハッとさせられてしまった。
ある程度以上の日本史の知識が求められるが、読み応えのある一冊。