20代後半の未婚女性にとって、お相手の男性が見つからないというのは深刻な問題であるらしい。負け犬だとか崖っぷちだとか、メディアは面白おかしく形容するが、それでは何に負けているのか、崖から落ちたらどうなるのかについて説明もなく、ただ不安を煽るだけというのは困りものという気がする。婚期が早い遅いというのは、添い遂げる相手と巡り会うタイミングの違いだけではないのか。十人十色の出会いや恋愛の形があるからこそ人生は面白いと思うのだが、その形や時期の差異をもって、あたかも人間に優劣があるかのように表現するのは如何なものかと思う。
先日、その年代の若い友人が、妻子持ちの先輩に
「君は結婚しないの?」
と言われたそうな。結婚すれば偉いとでも思っているのか何なのか、カレシのいない女性に向かってそういう問いかけをするというのも、発想が幼いというべきか、それで何を得ようとしているのか理解出来ないが、こころないひとにこころを求めても仕方がないのかも知れない。
話が逸れるが、ある挿話を紹介したい。
1996年のF1日本グランプリのこと。36歳の苦労人デイモン=ヒルが優勝して初のワールド・チャンピオンに輝いた。レース後の記者会見の隣席に、若いミカ=ハッキネンがいた。ハッキネンは誰もが認める才能溢れるレーサーではあったが、F1参戦6年を経てなお、年間王座はおろか優勝すら果たせずにいた。そんなハッキネンに、ヒルがこう言った。
「いつか君にも同じ日が来る。」
それから2年後、ハッキネンは狂ったように勝ち始める。そして、同じ日本グランプリで見事王者の座を射止め、ヒルの予言を現実のものにする…
僕自身、結婚して妻と一緒にいられるのは確かに幸せではあるが、「君はまだ?」とニヤつくよりは、「君にも同じ日が来る」と言えるこころを持った人になりたいと思っている。幸せを独り占めするよりも、幸せをシェアできる方が美しいに決まっている。
Orac Verlag (2000/03)