10年前、はたちになる瞬間の僕はサークルの先輩と電話で話していた。当時はEメールもチャットも普及せず、iモードはおろかショートメールすらない時代にあって、携帯電話は専ら話すためのものだった。あの時話していたのはサークルの運営に関することで、今になってみれば大したことではないのかも知れないが、19歳の自分はそれなりに一所懸命だったとは思う。
あれから10年、今でも若いつもりだけれど、あの頃のような情熱や集中力を僕は持っているのだろうか、そしてそれらを、今自分が本当にやるべきことに注いでいるだろうか。一番大切なものを手に入れたけれど、そうでないものも大切にしているだろうか。
あれから10年、大学を出て働き始めて随分経つが、一体自分自身はどれだけ変わって、どれだけ成長したのだろう。自分の欠点は昔から変わっていないように思うし、歳をとっても、社会的な肩書がついても、自分はいつまでも自分のままであって、変わったとすればそれは他者の自分を見る眼や、周囲のものの見方の変化ではないかと思う。
あれから10年、他者との無用の対立や諍いというものを、僕は何度も経験してきた。あの先輩とも今では連絡を取っていない。
それでも僕は、他者と仲良くしていたいという気持ちをずっと持っている。これまで仲良くしてくれた人たちにはこれからも仲良くしていて欲しいし、今は口をきかない人たちとも、いつかは理解し合える日が来ると、ただ根拠もなく思っている。
これから僕は、どこに向かい何をするのだろうか。この10年間、自分で自分を褒められるようなことはしてこなかったし、これからだって、自分がどんな人間でいられるのか分かりはしない。自分が何を守り何のために生きてゆくのか。30代になるからといって忽ちに分かるわけでもなく、考え出せばキリがないが、僕が僕であるためにこそ、自分と違う存在である他者に対する関心は失わずに生きてゆこうと思う。
(初出:Cliches.net メールマガジン第5号)