子供を保育園に入れたことのない人にとってはピンと来ない話題かもしれないけど、夫婦共働きとなれば子供は預けなければならない。で、俗にいう保育園には3種類ある。
東京大学のウェブサイトの説明が分かりやすい:
“認可・認証・認可外保育所の違い” http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/hoiku/02.html

「認可保育所」は国が認めて助成もしてくれるところだから安心。でも、全国統一の設置基準があって、そのハードルの高さから都市部ではたくさん設置するのが難しい、一方で東京都心部では託児需要が高まってきて認可保育所がパンク状態になり、国の基準を満たさない「認可外保育所」といわれる民間の保育園は、料金が高く保育内容もまちまちで分かりにくいという欠点があった。

そこで、石原都政一期目の2001年に東京都認証保育所制度が誕生。都が定めた独自基準を満たせば「認可外保育所」であっても助成するというもので、民間企業の新規参入を促す狙いもあった。
国ができないことにどんどん都が発言して実践する、というのは石原都知事が在任中のべつ言っていたことで、がんじがらめの国の規制を前に諦めるのではなく、知事が全責任を持つから都民の為の施策をキチンとやりなさい、という石原式トップダウンが都職員を動かした。余談だが、これは石原慎太郎が運輸大臣当時に、成田新幹線の遺構を活用した鉄道アクセス改善(現在の成田エクスプレス、京成スカイアクセス線)を着想からわずか半年で着工にこぎつけ、その際、自ら指揮した運輸官僚たちがどれだけ優秀で目覚ましい仕事が出来るのかを思い知った経験がヒントになっているのだと想像される。
当初は3カ所からスタートした認証保育所は今年2月1日現在で706カ所、定員23,865名に達している(こういう実績ってメディアはなぜか報じないんだよね)。

でも、そうはいってもやはり数が足りないことに変わりはない。

東京都単独で出来ることには限度がある。補助金をバラまけば保育所をたくさんつくれるっていう単純な話ではない。保育士を確保できなければもとより保育園は開けないのだし、認証保育所を多く認めるとしても、営利企業である以上、待機児童が多くとも事業としてペイしない地域には進出したがらないだろう。
圧倒的に託児需要の高い東京に認可保育所の弾力的な設置基準をつくるとか、国家資格である保育士の安定的な確保、最低雇用条件の引き上げといった根本的な問題は、国の施策に委ねるほかないのだ。

2009年の政権交代で民主党は「子ども手当」なるテレビ受けしそうなことをやったけど、実際に子育てする親にとっては、いくばくかの現金をもらったとしても、安心して子供を終日預ける環境がなくては仕事を辞めなくちゃいけない、それで世帯収入も減ってしまうし労働力人口そのものが減ってしまう、という想像力が当時の為政者にどれだけあっただろうか。
「脱官僚」とか言い出した民主党の総理大臣もいたけど、官僚をフル活用して独自の都民へのサービスを進めた石原都知事と、一体どっちが都民にとって頼もしかっただろうか。そして、今回の都知事選でその民主党たちと石原慎太郎は誰を支持してるっけ?

待機児童問題って選挙戦であまり大きな話題になっていないんだけど、有権者の少なからぬ割合のお父さんお母さんが、今ここにある危機として認識してることだと思う。だって、働かないと暮らせないんだし、子供つくったら働けないっていう社会はおかしいもん。
少子高齢化が心配ならば、子供を安心して育てられる環境づくりこそが大事だと思うし、僕自身二人目が欲しいと思いつつ実現できていない理由のひとつがでもあるから、他人事ではない。ちなみにうちの息子は東京都認証保育所の世話になっている。

蛇足ながら、今回さる候補者が
「石原都政、猪瀬都政、14年間の間に、福祉が大幅に削られてきております。若いお父さんお母さんたちが子どもを預けて働きたくても、保育園が足りません。現在、認可保育園に入りたくて入れない待機児童が2万人を超えております」
言っているけど、上述の石原都政の実績(認証保育所23,865人の定員確保)をシカトしたくてしょうがないのか、弁護士なのに証拠を調べないほどモウロクしてるのか、あるいは慎太郎への個人的な恨みつらみがあるのか分からないが、こういうことを平気で言う上司がきたら、これまで実際に政策を遂行してきた都の職員はすごくガッカリするだろうなと想像するのだが、皆さんが自分の立場だったらそういう上司に来てほしいですか?

あと、婚外子の養育費で揉めてる候補者がいるって聞いたけど、そういう人が知事になって「子育てお母さんを支援」とか言い出したら、それはもうただのブラックジョークだと思うんですけど、皆さん応援します?

ええと、それから、脱原発候補でしたっけ。
東京都には原子力発電所は1基もないし、強大な権限を持つ東京都知事であっても、国のエネルギー政策に容喙することなどできはしないはずなんだけど、佐川急便からの1億円(猪瀬前知事の倍額)を、借りて全額返したから問題無いと居直ったり、オレンジ共済(投資詐欺集団)から3,000万円受け取っていたりしても、脱原発の御旗があれば何でもやっていいのかしらん。あと、変人支援者が脱原発って候補者以上に絶叫してるけど、妊娠中に離婚した元妻がどういう環境でどういう気持ちで子育てしてきたかっていう人の痛みをどれだけ理解してるんでしょうか。絶叫してる当人の心根は、子育てしている有権者の共感を得られるものなんでしょうか。

以上、子育ての切り口から都知事選を眺めてみました。
 

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